冬来たりなば春遠からじ

春がもう豹のような忍び足で訪れていはしたものの、夕暮れになると、まだ未練がましい冬の気配が粘り強く残っていた。
(冬来たりなば春遠からじ、か・・)
嗣二は、一人ごちながら、はらはらと舞い落ちてくる綿雪を眺めた。

阿部嗣二は、海沿いのO市内で小さなカフェを営んでいる。珈琲の卸商だった父親が老後の道楽に開いた喫茶店を引き継ぎ、今日に至っている。今では古臭く感じる『ブルマン』という店名が、それを物語っていた。長年連れ添ってきた妻は一人娘を遺し、七年前に他界した。交通事故だった。海外のミステリー小説を原文ですらすらと読める才女だった。その影響だろうか、最初はさほど興味のなかったミステリー小説に、今では嗣二もどっぷりと耽ってしまっている。自然とお客さんたちにも、ミステリー小説好きが多くなってきていた。

その中の一人に、眞子がいた。
四十の坂を少し越えたばかりの、清楚な雰囲気を持った熟女で、O市郊外の高級住宅地に住んでいた。外資系金融会社に勤める夫は、月の半分を東京で暮らしているのだという。

そんな眞子が『ブルマン』の常連になったのは、ある事がキカッケだった。
その日も最後のお客さんを見送り、いつものように店仕舞いをしていると、肩越しに声を掛けれた。聞き覚えのある声だった。振り向かずとも、声の主は分かっていた。どこかで、彼女のことを心待ちにしていた。
彼女を店に招き入れ、カウンターの上に置かれた本を指さした。
「良かったぁ~。本当にすいませんでした」
「良かったら、もう一杯飲んでいきませんか?奢りますから」
「そんな、お邪魔じゃありません?」
「全然、大丈夫ですよ。早く締めても、家には誰もいないんで・・」
モカを飲みながらお互いのことを喋り合っていると、いつの間にか時刻は夜の9時になっていた。
「お腹、空きましたね。何か作りますよ。私がお引き留めしたんだから」
「そんな、気になさらないで下さい」

その日以来、眞子は店の常連となり、その後間もなくして、嗣二のセフレとなった。

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