文豪ゆかりの地で出会った淑女

中学時代から文学に傾倒していた私にとって、夏目漱石の執筆した小説『坊ちゃん』の舞台、愛媛県の松山市は一度は訪れてみたい場所だった。

JR松山駅に昼過ぎに到着すると、駅前ロータリーで暇そうに客待ちしていた白塗りのタクシーに飛び乗り、山頂に松山城天守閣があることから、通称「城山」と呼ばれている小高い山へ向かった。

走ること約五分。
あっという間に山頂に到着してしまった。
「ここからは、歩いて下さい」
運転手に料金を払い、外に出ると、初秋の爽やかな風が頬を撫でていった。
(あっ~、やっと来れたな、松山に・・・・)
独りごちながら、市内の街並みを眼下に臨んでいると、天守閣の方へ向かっていく女性の姿が目の端に留まった。鍔広の帽子を被っていて顔は見えなかったが、淑やかな雰囲気を持った熟女だった。歩き方に品があり、後ろ姿にも楚々としたものを感じた。

城郭の中をあれこれ見て廻り、さきほど上がってきた坂道を下っていくと、日本の築城史上、大変貴重な遺構である「登り石垣」を食い入るように眺めている女性の姿が目に飛び込んできた。
(彼女だぁ!)
マスタードのカットソーボレロジャケットにオフホワイトのトリコットパンツを合わせている。腰まで伸びた黒髪が、吹きすぎる風に揺れている。誘蛾灯に誘われる羽虫のように、私は彼女の蠱惑的な魅力に吸い寄せられてしまった。
「豊臣秀吉の朝鮮出兵、でしたか?」
深呼吸をした私は、失礼は承知の上で、勇気を振り絞り声をかけてみた。
もちろん、松山に行くと決めてから頭に叩き込んだ付け焼刃の知識だった。
「ええ、朝鮮半島の防備を固めるために採られた石垣普請ですね」
事も無げに応えた彼女は、視線を石垣から離さず、さらに続けた。
「文禄・慶長の役で、当時の大名たちの侵攻の拠点として・・・」
彼女の講釈は、それから約五分が過ぎても終わる気配がなかった。普段なら、長広舌に辟易して踵を返しているところだが、彼女の見目麗しい瞳に、私は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていた。
(何て美しい人なんだ・・・・)
「・・・・それで、山腹からの敵の侵入を防ぐという考え方は、中国の万里の長城に通じるものがあって・・・・」
延々と喋りつづける彼女の口許が、艶めかしい。人目がなければ、今すぐにでも吸いつきたくなるほどの色っぽさだ。豊かな臀部に股間が熱くなってくる。
「あら、ごめんなさい。長々と喋ってしまって・・・・歴史に興味はありますか?」
「ええ・・・・」
脇の下に冷たい汗が流れた。
「地元の方ではないですよね?」
「ええ」
「今日はどちらからですか?」
「北海道です」
「まぁ、わざわざ松山まで・・・・私の故郷へようこそ」
健康的な白い歯を見せながら微笑む彼女は、真由美と名乗った。

それからの展開は早かった。
遠方からの観光客を自分のセダンに乗せ、市内の方々を案内してくれた。道後温泉本館、正岡子規記念博物館、石手寺、坊ちゃんカラクリ時計などなど。道すがら、鍋でぐつぐつ煮込んだ柔らかな麺が特徴の鍋焼きうどんを湊町にある老舗「アサヒ」でご馳走になった。
「今夜は、どちらにお泊りですか?」
「ええ~と、ちょっと待って下さい」
そう言って、ズボンのポケットからくしゃくしゃになったメモ用紙を取り出し、
「ここですね」
そこには、走り書きで「別邸朧月夜」と書かれてあった。道後温泉中心街の一角にありながら、瀟洒な佇まいの隠れ宿だ。
「あら、素敵な場所にお泊りになるのね。地元の人間だから、まだ一度も泊まったことがないですよ。宿まで、送りますよ」
ハンドルを軽やかに操る彼女の横顔を見つめながら、私は決心した。
「今宵お暇でしたら、一緒に時間を過ごしてくれませんか?」
一か八かの賭けだった。ハンドルを握ったまま、彼女は暫く無言だった。

いよいよ旅館の灯りが見えてきた。
「じゃ、今夜だけは甘えさせて貰いますね」

旅の開放感に浸った男と、見知らぬ男に身体を預けた熟女が、お互いの欲望を心ゆくまでぶつけ合い、二人同時に絶頂への螺旋階段を舞い上がった。

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